ルピナスの花

今日で私は24歳になった。そして、引越しまであと2日。部屋に貼っていたポスターや絵葉書、お気に入りの布を外すと、部屋がもとの状態に戻って行くのがよくわかる。それは作業が順調に進んでいることを表すと同時に、自分の大学生活を畳む作業がいよいよ終わることを意味する。そして明後日には、この部屋に帰ることはもう二度と無い。そう考えると、胸の奥が少しキュンとする。

実家にいた頃は、友達を家に泊めたことは一度も無かった。だから私が泊まりに行くことも無かった。大学に入学して、一度の引越しを経てこの部屋に来てからは、結構色んな人を招き入れた。そして友達を何度も泊めた。私もたくさん泊まりに行った。友達と一晩中過ごすことの楽しさは、この部屋に来てから知った。

母との喧嘩の思い出もたくさんある。1人で泣いた夜なんか数え切れないほどだ。それほど私と母は不安定で、安定や安心を渇望していて、そのためにそれぞれが頑張れる環境を作り上げることに夢中だった。喧嘩は今思えばそのためのプロセスの1つに過ぎなくて、それが親子関係の結果になったことは一度も無かった。その後も私たちの関係はちゃんと続いているし、今はとても仲良くできていると思う。

彼氏に告白したのもこの部屋だった。母に背中を押してもらって、そしたら奇跡的に付き合ってくれることになった。そのときはただ彼氏がいる状態に満足しただけだったけれど、なんだかんだでもう4年も一緒にいる。告白した当初よりも今の方が好きだし、知れば知るほど面白いと思える人は本当に貴重だ。

最初はただの寝床だった部屋が、いつの間にか私の生活の全てになっていた。部活と勉強ばかりしていて、日常生活を楽しく過ごす工夫には全く興味が無かった私が、初めて料理をしたり掃除をしたり洗濯をしたり、家事に取り組んだ部屋。大学に入学したばかりの頃は、卒業したらバリバリ働くことしか考えていなかったけれど、衣食住を充実させることの大変さや楽しさを初めて感じた部屋。それは母との思い出であり、友達や彼氏との記憶であり、そこにはいつもこの部屋があった。この部屋こそ一番のお気に入りだったから、ここを離れるのは本当に寂しい。でも気に入った部屋に住むことが、普段どれほど自分の心の支えになるか、それがわかっただけで、この先どんな場所でも私の生活を手に入れることができる気がする。

6年間、私の帰る場所がこの部屋で幸せだった。もう帰ってこないなんて本当に信じられないけど、本当に幸せだった。